第四回 きょうだい児の課題と支援

1963年に東京で設立された「全国心身障害者をもつ兄弟姉妹の会」が発端となり、今では全国各地にきょうだい児のための支援の輪が少しずつ広がってきています。アメリカで毎年4月10日に開催されている「シブリングデー(きょうだいを称える祝日)」にちなんで、日本でも2019年に4月10日が「きょうだいの日」と定められました。
国の成育医療施策の基本的方針 きょうだい児への支援推進の必要性を掲げている
国は令和3年2月9日に閣議決定した「成育医療等の提供に関する施策の総合的な推進に関する基本的方針」の中で、子どもを育てている家庭への支援の一つとして、慢性疾患を持っている児童、医療的ケア児、発達障害児のきょうだい児などへの支援を推進するとの方向性を示しました。
また、地方公共団体でもきょうだい児への支援としてきょうだい児を対象とした様々な集いが少しずつ開催されるようになってきています。
令和5年4月10日(きょうだいの日)には、一般社団法人日本きょうだい福祉協会が設立されました。この協会はきょうだい児とその関係者が安心して暮らすことのできる社会の実現に寄与することを目的としています。

子どもの頃にあると良かったと思うこと=相談相手、仲間づくり活動、障害に関する知識
2021年に全国きょうだいの会が、きょうだい児として育った大人を対象に「子どもの頃にあったら良かった」と思うことについて、アンケート調査を行っています。
アンケートは一つだけを選ぶ単独回答と複数回答で行われていますが、単独回答、複数回答とも子どもの頃にあったら良かったこととして最も多いのは相談相手で、単独回答では56%と半数以上を占めています。小さい頃から周りの人の無理解や偏見にさらされ、家庭内での家族関係で悩んでいても、誰にも話すことができず一人で悩むしかなかったきょうだい児が多くいます。
「子どもの頃、誰かが相談相手になっていてくれていたら」という、大人になってから感じる本当に切ない思いです。親はもちろん、福祉や教育関係者がきょうだい児の存在に気づき相談相手になることは、たとえそれがすぐに解決できなくても、心の拠り所になります。
2番目に多かったのは、きょうだい児が活動できる場で、大人のきょうだい児と子どものきょうだい児など同じ悩みを持った仲間の交流です。自分は一人ではないという安心感を持つことができます。さらに活動の輪を広げるためには地域社会や行政などへの働きかけが必要です。
3番目は障害について学ぶことです。子どもの頃にきょうだい児自身が障害についての知識を持つことができていれば、きょうだいの障害をより深く理解できます。また、障害によって受けることのできる支援や制度などの知識があるとある程度将来の見通しを持つことができます。

きょうだい児が自分らしく生きるために=自分の思いを話し心の負担を減らす
多くの場合親だけでなく、医療や福祉の場やきょうだい児が通う幼稚園や学校など社会全体が、きょうだい児の持つ悩みや問題に気がついていないことがあります。私自身も障害のある子どもをたくさん見てきましたが、きょうだい児の存在に気づいたのはずっと後になってからです。
時にはきょうだい児自身も気がつかないまま「なぜ、こんなにつらいんだろう?」と感じていることもあります。きょうだい児の多くは精神的な不安感だけでなく、将来の進路や住む場所、結婚など自分の人生を自分の思いだけで決めることが難しいことを知らず知らずのうちに感じており、特に親が亡くなって、障害のあるきょうだいの世話をしなくてはいけないかもしれないなど、将来について不安を持っています。自分らしく生きるためには、自分に関係のあるきょうだいの問題について家族に自分の思いや考えを話すことが必要です。
自分の思い通りにならないかもしれない将来に対し、きょうだい児の多くは両親に対して色々な思いを持っています。「様々な体験を通じ障害のあるきょうだいがなるべく自立して生きていけるようにしてほしい」、「障害のあるきょうだいの将来の方向を決める場合には自分も相談に加えて欲しい」などの思いです。これらは親が亡くなった後、きょうだいの問題が直接に自分に関わる問題となる可能性があるからです。
民法第877条では、直系血族および兄弟姉妹は互いに扶養をする義務があると定められていますが、きょうだい児には事実上の扶養義務は必ずしもありません。しかし、きょうだい児が自分に関わるかもしれない事について意思決定に関わることができないことは問題です。さらに障害児本人も希望を代弁してもらえるように話し合いに参加することは一人の人間としての権利です。
しかし、すべての家族が親との関係が必ずしもうまくいっているとは言えない場合もあり、話し合いに応じてもらうことが難しく家族内の当事者だけでは解決が困難なことがあります。
そのような場合には、将来どの様な障害福祉の制度が利用できるのかの行政との話し合いの場に親だけでなく、きょうだい児も参加し制度について知っておくことは親やほかのきょうだいどうしがお互いに誤解を生まないためにも大切です。福祉関係者から受けることのできる福祉サービスについての情報は非常に有用でありきょうだい児の心の負担を減らせる可能性があります。
そして、自分の思いを話すことによって理解してもらえていると思えることが何よりの救いになります。

国などに望むこと=家族の負担を軽くするための具体的な手立て
2021年に全国きょうだいの会が行ったアンケートで「国などに望むこと」についても調査を行っています。アンケートは一つだけを選ぶ単独回答と複数回答で行われており、どちらの回答とも、最も望むのは相談機関です。
きょうだい児と一言で言っても、悩みや相談内容は人によって違い、複雑な問題を抱えています。身近な人に相談しづらいことや内容によっては公認心理師や臨床心理士などの専門的な相談支援が必要な場合もあります。
相談機関に次いで望まれているのは、単独回答では、障害のあるきょうだいの財産管理と年金などお金に関することです。年金、財産管理等は「障害者の自立」に向けて、家族の負担を軽くするために不可欠で、福祉サービスを利用するため、これからは成年後見制度の利用が求められています。
一方、複数回答では障害者の生活の場である入所施設やグループホーム、将来一緒に生活していく場合に必要な家族のレスパイトのための緊急一時預かり等の充実を求めています。
特に、「親亡き後」が迫っているきょうだいにとって、親が亡くなった後に障害を持ったきょうだいがどこに住むのかという生活の場の確保は切実な問題です。これらは、相談機関への相談により、障害者総合支援法の自立支援給付のうち短期入所や自立に向けた居住支援などの制度を組み合わせて利用をすすめることができます。

きょうだい児に対して行われている支援
きょうだい支援について、国が示した方向性を受け、地方公共団体では、様々な地域の団体と
連携してきょうだい支援に取り組みつつあります。令和3年2月に厚生労働省では科学研究成果として、小児慢性特定疾病児童、医療的ケア児、発達障害児者のきょうだい児支援取組事例集の報告がされています。この中で44支援団体、6病院の取組みが紹介され、きょうだいを対象としたレクリエーションやお茶会などの集まりの場の設定などについて報告されています。
また、この報告書の中で名古屋大学の新家一輝先生らによる医療機関におけるきょうだい支援の実態調査があり、支援を行っていく上で障害となるのはマンパワーの不足であると報告されています。またその他の障害の中に感染リスク、スペース、スタッフの意識があげられています。今後きょうだい支援の取組を進めるためにはきょうだいの児の存在と支援の必要性を周知し、支援活動の担い手を増してゆくことが大切です。

認定チャイルド・ライフ・スペシャリスト(Child Life Specialist:CLS)
認定チャイルド・ライフ・スペシャリストをご存じですか?
病気の治療のために入院や通院が必要な子どもとその家族に寄り添い精神的な負担をやわらげ支えることを専門としている医療スタッフです。子どもが主体的に医療を受けることができるように遊びを通して子どもの不安やストレスをできる限り軽減し、心の準備をサポートし、「子どもと家族中心の医療」を支援するのが主な役割ですが、病気の子どもだけでなく、そのきょうだい児や周りの子どもたちも心理的に支援することも大きな役割です。
CLSは医療における子どもと家族への心理社会的支援に関する心理学などの学問を学び、幼稚園や保育園、学級、病院などでの実習を経て、認定CLSのもとで病院でのインターンシップを行った後に資格を取得します。資格はチャイルドライフ認証委員会によって認証されています。
2025年7月時点で日本では36施設50名の認定チャイルド・ライフ・スペシャリストの方が子ども達のそばで活動されています。 まだまだ少ない専門家ですが、今後、子どもたちの傍に寄り添うスタッフとして期待されます。
周りの私たちがきょうだい児に対してできること
本当のつらさは同じ経験をした人同士にしかわかりません。しかし、周りの私たちもきょうだい児の体験や思いを聞きイベントなどを通じた交流を行う中で、少しずつ理解することができるかもしれません。きょうだい児の中には「今はそっとしておいて欲しい。」と思っている人もいると思います。
支援団体の中には、SNSを通じてきょうだい児に関する啓発活動を行なっている団体もあります。その一つにきょうだい児のためのサイト「Sibukoto」があります、きょうだい児が集まる悩み相談やきょうだい児の交流や勉強会などイベント情報を広く知ることができます。
| 障害者のきょうだい(兄弟姉妹)のためのサイト などシブコト
このサイトではきょうだい児を支援したい人が、きょうだい児にメッセージを送ることもできます。また、直接会うことをためらってしまう人には、SNS上での交流も精神面への支えにつながると思います。
さいごに
きょうだい児として育ったあなたは、幼い頃からお父さんやお母さんの大変さを感じて育ってきました。
一生懸命、病気や障害のあるきょうだいの世話をしているお母さんの背中を見ながら、「おかあさん」と声をかけるのを何度ためらったことでしょう。
おかあさんも、あなたのことに気が付かなかったわけではありません。お母さんは精いっぱいだったのです。幼かったあなたにそれを理解することは難しかったでしょう。
いつか、それを理解できるようになったら、「おかあさん」と声をかけてみてください。

ではまた。 Byばぁばみちこ

